値札の経済学
こんにちは。特定社会保険労務士の森川友惠です。
皆様は昨日(2022年2月1日)の日経新聞夕刊をご覧になったでしょうか?値札の経済学と題して「習い事値上がり、水泳が先行」とサブテーマがつけられてました。詳しくは記事をご覧になって頂ければ(※有料サイトとなります)と思いますが、要は、”他の習い事よりも月謝の上昇がすごい”…と伝えたいようです。
とにかく、設備関連の費用が莫大。
プールを併設されている店舗の責任者や経営者の皆様であれば、簡単に想像がつくと思いますが、『プール』が併設されているだけで、水光熱費等のランニングコスト、設備維持管理費などが莫大です。15ⅿ×2コースの池のようなプールから25m×7コースあるプールに、立派なジャグジースペースがついた…実に、様々なタイプの『プール』が併設されている店舗を担当しましたが、日々を確実に『運営』することが本当に大変でした。
例えば…『営業できる水温』を考えてみても、スポーツクラブのプール利用者は、年齢で言えばゼロ歳児のベビーちゃんから上は70代、80代のシニア層まで。そして、その目的は、ベビーちゃんの水慣れからタイムを競う子供たちのスクールに、マスターズで試合に出場する大人のお客様まで。実に様々なのです。よって、水温も、30℃±1℃を基準に設定しなければなりません。これには、本当に苦労しました。
とある店舗では、夏場、もともとひっぱってくる市水の温度自体が30℃を超えていて、施設内のろ過機を通して…となると、平気で32℃、33℃近くを推移し、競泳を楽しまれているお客様からは、来る日も来る日もクレームを受ける…。
逆に、朝いちばんのベビーちゃんのクラスで、水温が27℃から時間通りに上手く上がってくれず、ジャグジーで待機。なんてこともありました。
…営業するには、『水温』だけでなく、いわゆる衛生基準も遵守する必要があるわけです。ここには、濁度、残留塩素濃度、大腸菌、トリハロメタン…等々様々な基準をクリアしていることが求められ、この為に、ろ過機やボイラー、チラー等の設備投資やメンテナンスが欠かせません。大きなプールを併設している店舗だと、こういった費用が売上高の10%~下手すると20%を超えてしまう場合もあります。(20%超える…となると、店舗の死活問題です。)
その上、運営するための人件費も莫大。
スクール運営で、最も大切なことは参加してくださっているお客様も含めた『人の管理』です。お子様対象のいわゆる水泳教室は、対象年齢(学校の終了時間)と本人のスキルの高さ(月1回の進級テストを実施しているところがほとんど)に応じて、クラス分けをしています。決まった曜日、決まった時間で参加されるであろう人数をある程度固定、コントロールしないと、担当するインストラクターの配置が決まらないですし、何より、”質の高い指導”を提供することが難しくなるわけです。
そして…最大の難関がインストラクターの育成です。スポーツクラブのインストラクターとして働く人のほとんどが『未経験者』です。『経験者』を探して勤務してもらおうとすると、それこそ…探すための費用を投資して、かつ高い時間給を用意できなければ『経験者』を雇用することはできません。…という私も、新入社員当時は『未経験者』でした。『未経験者』の育て方は、別の機会に書くとして、『未経験者』がインストラクターとして子供たちに教えることができるようになるには、そのクラスにもよりますが、最低…3カ月間の下積み期間を要します。この期間、インストラクターとしてのマナー、机上での知識面の研修や救急救命のトレーニング、先輩インストラクターのサブやアシスタントを務めて少しずつ勉強する訳です。…なので、ここでも費用が抜群にかかります。
設備の費用のところでも書きましたが、大人のフリー利用だけではなく、スクールを持っている店舗ですと、売上高に対して、30%~40%を超える割合が人件費…というところ店舗も少なくはないと思います。
店舗の基軸価値は何ですか?
プールはお金がかかる…というお話しをひたすら書いてきましたが、結局、そのサービスを通して店舗は何を提供しますか?店舗の基軸価値は何ですか?ということが明確かどうかに戻ります。
新型コロナ感染症が流行して2年超。スクールには人が戻ってきた…というお話しを耳にしますが、これから先、安定的に運営していくには費用面だけでなく、『覚悟』が求められる業界です。流行前と同じ感覚、同じ考えでは上手くいかないことも沢山ではじめています。だからこそ店舗の『基軸価値』は何か?を浸透させ、組織全体に方向性を示すこと。これが今、やらなければならないことだと考えます。
皆様のご意見をぜひ、お聞かせください。